DELUSION

デザイン学生が、様々な作品や人物を取り上げ、「作り手目線」で語っています。(映画、音楽、デザイン、漫画、アニメ…etc)

『君の名は。』 の ロングヒット

色んな作品についてダラダラ語る場が欲しいなと思って始めました。暇なときにでも見に来てくれたら嬉しいです。※全て個人的見解です。

 

第一回は『君の名は。』について。

君の名は。』は2016年に上映、大ヒットし、51週にわたり映画館で上映、国内では興収250.3億円、『千と千尋の神隠し』『タイタニック』『アナと雪の女王』に次いで4位。(日本映画では2位)海外では千と千尋の神隠し』の2.75億円を抜いて3.55億円で日本映画1位となったアニメ映画。*1

 

この『君の名は。』はめちゃくちゃ売れた映画にも関わらず、結構周りに「ツッコミどころが多すぎる」「そこまで売れる意味がわからない」みたいな人が多かったので、自分なりになぜあんなにヒットしたのかについて語らせていただくと、君の名は。』はヒットするためにかなり精巧に作り込まれていると思います。

 

まずはこの物語の内容から見てみると、過去にもよくあった男女が入れ替わる物語。

ただ、今回は男女が知り合いじゃないんですよね。遠く離れたところに住んでいる都会の男子と田舎の女子。それをつないでいるのがスマホ。実際に劇中にはスマホ画面が映るシーンがかなりあって、ターゲットを若者に絞って共感を得やすいようにしていました。現代版男女入れ替わりストーリーって感じなんですけど、それよりもキャラクター像と時代の掴みがめちゃくちゃよくできてんなあ…って思ったところがありました。下に載せてる動画で山田玲司さんというめちゃくちゃ面白い人が語ってたことなんですけど、

 

www.youtube.com

 

まず、山田さんがキャラ設定について語っているのが、瀧くんと三葉が絵に描いたような都会男子と田舎娘だということ。

「田舎に住む人が想像する東京にぴったりとチューニングを合わせてる」

「見たい人の想像に合わせているから作家主義の人間でもルサンチマンを入れないようにしている」

田舎に住む人が想像する都会男子像、都会に住む人が想像する田舎娘像をそれぞれ体現しているのが瀧くんと三葉であり、実際の都会男子や田舎娘をかなり大げさにチューニングして描いている。

 

また、瀧くんと三葉に感情移入しやすい仕掛けも解説されてました。

「女子はリア充で、イケメンで、大卒で、スーツ着て、就活してたらオッケー」

「奥寺先輩に相手にされないような中身が未熟なやつだけど、運命の人としてアリなラインは超えている。」

これはめっちゃ笑ったんですけど、女子的にアリのスペックラインを超えていて、男子も共感できるちょいダメラインもクリアしてる絶妙なエリアに瀧くんのキャラを配置しているとのこと。確かに。男子はだいたい三葉のこと好きなのでクリアです。

 

また、日本で公開された映画の流れもうまく汲んでいると。

「少しも寒くないわじゃない!」

君の名は。』より先に日本で公開された映画である『アナ雪』『MADMAX』が自然主義であり、特に王子が実は黒幕で、結局トナカイ使いとくっついて、「少しも寒くないわ」と言っている『アナ雪』は完全に「男には期待しない、女同士で仲良くしよう」という教訓が感じられる映画で、それを観て現実を見始めた女子からすれば、『君の名は。』を観て、かつて失ってしまった希望にすがってしまうのもわかる。

 

つまり、君の名は。』完全にロマン主義チューニングでガッチガチに固めた作品だということ。よくよく思い返してみれば絵に描いたような都会男子と田舎娘の体が入れ替わってしまうという設定自体ロマン主義感満載だし、さらに思い返せば、都会の描写の時は空や街を新海誠パワーでキラッキラに描いていたのに、田舎の糸守町でキラキラに描かれていたシーンはなかったですよね。あったとしても彗星が落ちてくるシーンくらい。ここで完全に都会と田舎のコントラストを強烈にして実在しない都会男子・瀧くんへの希望をがっつり三葉目線で描いているのと同時に三葉に感情移入してる女子全体の心も持ってたんだと思います。

 

というわけでそもそもツッコミどころを見つけてしまったり、乙女心を理解できない人はそもそもこのロマン主義チューニングから外されていたわけでそんなこと新海誠は気にしてなかったんですね。

 

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このポスターに惹きつけられたロマン主義を求めている人たちは自然と惹きつけられていたと。

 

 

そしてここからはなぜロングヒットしたのか。

ここまでキャラクターや設定を丁寧に作れたのは山田さんの話からすると川村元気さんのチューニングが効いていたからとのこと。この川村さんは凄腕映画プロデューサーで、wikipedia見てもらったらわかると思うんですけど、すごい数の話題作を手掛けてる人です。そしてこの川村さん、実は後に公開された『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』も手掛けているんです。監督に新房昭之(有名なアニメ監督)、脚本に『モテキ』監督の大根仁、声優陣に菅田将暉広瀬すずと申し分ないメンツの上、主題歌をDAOKOと米津玄師が手掛けるという豪華メンバーで固めたにも関わらず、興収は15.9億と『君の名は。』とかなり差が開いてしまった理由は、内容は置いて、制作自体に違いがあったと思います。

 

・音楽の使い方

君の名は。』の音楽は全部RADWIMPSが手掛けています。そして、映画と曲を同時並行して作り、シーンと曲がマッチするように作っていたとのこと。この結果どうなったかというと、PVかのように絶妙なほどシーンにぴったりな音楽が流れてました。実際に見た人は曲聞いたらそのシーンを思い出せるんじゃないかと思います。実はこれ、ミュージカル映画でも同じことが言えるんです。

 

ラ・ラ・ランド』『グレイテストショーマン』が世界中で大ヒットして、『グレイテストショーマン』は昨年末から公開されているにも関わらず未だに映画館で上映されています。単純にいい映画でいい音楽だったからというよりは、いい映画にうまくいい音楽がリンクされていたのが大ヒットの要因だと思います。

 

昔見たテレビで、記憶障害の人に昔聞いていた音楽を聴かせると、当時の思い出を話せるようになったというものを見ました。たぶんこれだった気がします。

youtu.be

音楽は記憶と密接で、昔聞いてた曲を聴くと当時のことを鮮明に思い出す経験を僕もしたことがあります。特に、エモい感覚を思い出すことがほとんだと思います。

 

YouTubeでいつでも音楽を検索でき、音楽がストリーミングされる現代で、一度聞いただけの曲を繰り返し聴くことは昔に比べ容易になりました。その中でミュージカル映画は、映画を見る→家に帰ってサントラを聴く→その時のシーンを思い出す→映画をまた見たくなるのループが自然とできるので、リピーターを生みやすいのだと思います。

通常、映画を見る人は物語が気になって見に行くので、基本的にリピートしません。衝撃的なシーンや感動的なシーンがあってもそのためにわざわざリピートすることがないのは、後々鮮明に思い出す瞬間や、そのきっかけがないから。

まるでミュージカルのようにしっかりと映画に質の高い音楽をねじ込んだ『君の名は。』は、さらにRADWIMPSという誰もが(特にロマン主義チューニングのターゲット)聞いたことがあるであろうアーティストを使うことで、普通に音楽としてプレイリスト組み込ませること容易にしたことで、『君の名は。』を世間から忘れさせないようにしたんじゃないかと。

 

・映像美

音楽に加えて映像もリピートさせるのに必要な材料だったと思います。後に新海誠展が開催されたように、あの画面だけにも十分な価値があるので、絶妙なタイミングであの綺麗な映像と質の高い音楽入ってくるので、知らないうちに視覚と聴覚でがっつり記憶に叩き込まれたのではないかと思います。

 

・小説化のタイミング

そして、小説化もされているんですが、そのタイミングが公開前なんです。普通、映画は試写会以外で公開前に内容が公開されることはありません。あったとしても小説や漫画の実写化などですが、それと同じことを映画のPRが始まっている公開2ヶ月前という直前に発刊することで、一部のファンからすれば、「この内容をあの映像美とRADWIMPSで作るのか」という期待度を一層高める仕掛けを作ってるわけなんですね。そのおかげで公開1週目からスタートダッシュを決めることができ、公開9週連続1位。話題が話題を呼び、さらには『君の名は。』中毒になった人がリピートするというサイクルを生んだんだと思います。

そして前作は全国23館のみの上映だったのに対し、今回は新海作品としては初めて製作委員会方式を取っており、全国300館の上映にしたとのことで、完全に狙いに行った作品だったみたいです。

 

という感じで、『君の名は。』とんでもなく作り込まれてるかもしれないという話でした。あくまで個人的見解なので、、、