DELUSION

デザイン学生が、様々な作品や人物を取り上げ、「作り手目線」で語っています。(映画、音楽、デザイン、漫画、アニメ…etc)

『ONE PIECE』 と ルフィの謎

 今回は 『ONE PIECE』について語りたいと思います。ただ、僕自身『ONE PIECE』は第一章と魚人島ちょろっとしか見たことがないので、内容についてあまり偉そうに語れないんでキャラクターについて語りたいと思ってます。

 

ONE PIECE

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僕的に『ONE PIECE』の面白いところの一つとして物語の緻密さはもちろんなんですけど、組織論的な観点も描かれているとこがあります。

 

ルフィと白ひげ

これは、本にもされているくらい有名な話ですが、ルフィ率いる「麦わら海賊団」と白ひげ率いる「白ひげ海賊団」の組織構造とそれぞれのリーダシップについてです。

 

「白ひげ海賊団」

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白ひげ(エドワードニューゲート)

 船員は約1600名で、16の部隊に分かれている。さらに、新世界で名を馳せる43の海賊団を傘下に従えており、傘下含めた兵力は5万人に及ぶ。「世界最強の男」たる白ひげを筆頭に、世界有数の実力ある海賊たちが集う。仲間を「家族」と想う白ひげの心意気は一味全体に浸透しており、鉄の団結力を誇る。なお、隊の番号と個々の実力は比例せず、隊長達は番号に関係なく同じ地位である。白ひげ海賊団メンバー - NAVER まとめ

「白ひげ海賊団」と「麦わら海賊団」には構造的に大きな違いがあります。それはピラミッド型フラット型かということ。

 

「白ひげ海賊団」は白ひげが絶対的頂点であり、その下に16人の部隊長、その下に各隊員、またその下に傘下の海賊団がいます。また、白ひげは海賊団を「家族」、船員を「息子」と呼んでいます。

「麦わら海賊団」はそれに対し、船長はルフィですが上下関係はなく、ルフィに権力自体はなく、権力ではなく意思によって周りを動かしています。また、ルフィは船員を「仲間」と呼んでいます。

 

 

実はこれ落合陽一さんが提唱しているリーダー像と完全に当てはまっているんです。

落合さんは、旧来のリーダー像をリーダー1.0、新時代のリーダー像をリーダー2.0と名付けています。

・リーダー1.0は完全無欠タイプで、すべての決定権を持って下を支配する。そして自分の後継者を育てる傾向にあり、体制を維持しようとする。ソフトバンクの孫さんや、スティーブジョブズがこのタイプだそうです。

・リーダー2.0は一つに秀でた能力を持ち、周りに自分の欠点を補える人を集める。支配ではなくカリスマ性で周りを引きつけ、後継ではなく後発を育てる傾向にある。チームラボの猪子さんや、デザイン界だとnendoの佐藤オオキさんはこのタイプだと思います。

 

 

つまり、白ひげは完全なリーダー1.0であり、ルフィは完全なリーダー2.0であると言えます。

ルフィは常に仲間を引き入れる時は一味にない要素を取り入れていき、航海士、狙撃手、コック、医者、、、といったように自分のないものを集めている様子が伺えます。また、泳げないルフィを泳げるメンバーがサポートしたり、ルフィが戦闘不能になった時やバラバラになって行動する時はそれぞれがリーダーシップを発揮することもあります。ルフィは常に専門の分野を持った者の能力を信頼して支配しようとはしていません。尾田さんが『ONE PIECE』を描き始めたのが20年以上前ですから、そんなに前からこのリーダー像を形にしていたと考えると恐ろしいです。

 

 

そして僕がずっと気になっていたのは、ルフィが何を考えているのかほぼ掴めないところです。思い出していただきたいんですけど、ルフィには直接的な心理描写が全くないんです。

 

 

ONE PIECE』と『NARUTO

ONE PIECE』を読んだことがある人は、『NARUTO』も読んだことがあると思います。どちらもジャンプで長年先端を走り続けた人気バトル漫画ですが、この二作品には

 大きな違いがあります。それは、『ONE PIECE』の指す「冒険」が文字通り物理的な冒険を意味するのに対し、『NARUTO』の指す「冒険」が成長を意味するというところです。

 

ONE PIECE』は、章ごとに新しい土地で、現地の世界観や、そこに住む人々に触れ、事件を解決していきます。そしてルフィ達が出会った人たちを救い、時には変えていくという展開をしていきます。

NARUTO』は、『ONE PIECE』と大きく違う点として、帰る場所が存在するということがあります。そしてメンバーも、新しく出会うキャラは一部で、基本的に敵キャラ以外、慣れ親しんだ人たちが登場します。そして、常に周りを変えていくというよりは、主要メンバー達が、修行や仲間の死などを通して成長していきます。

 

つまり、 『ONE PIECE』では、主要メンバーの直接的な成長はほぼ描かれておらず、突然新技が使えたりします。そして、変化するのは「新しく出会う人物や世界」という外向きな展開が見られます。

それに対して『NARUTO』は、ナルト含め木の葉の忍達の修行による成長や、出会いや別れなどのきっかけによる心理的な成長といった内向きな展開が見られるという違いがあります。

 

ルフィとナルト

ルフィとナルトは、どちらも明るく周りを巻き込んでいく典型的なジャンプの主人公的なキャラですが、大きな違いがあります。心理描写です。

ナルトは、自分が過去に孤独だったことや、恩師の死などを通してふさぎこむ場面が多く描かれています。『NARUTO』に出てくる登場人物全般に言えることですが、ナルトに共感や同情することができるため、感情移入してキャラクターを好きになることができるくらい、心理描写が繊細です。

ルフィはそれに引き替え、直接的な心理描写はほぼありません。確かに、エースを目の前で失った時やロビンを仲間に引き入れる時など、多くの場面でルフィは感情をむき出しにしていますが、ルフィ自体が何を考え、抱え込んでいるかといったナルトのような描写はありません。

 

ルフィの顔にも特徴があります。

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ONE PIECE』では色んなキャラクターが登場しますが、ルフィと同じ目の描かれ方をしているキャラクターはいません。ゾロやサンジやエースは同じように切れ長の目をしていますが、ルフィは丸く大きな目に小さい黒目が特徴的です。これは、はたから見て何を考えているかわからない印象与えていると僕は思っています。実際に同じような目を持ったキャラクターに、『銀魂』のエリザベスがいます。

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エリザベスも感情を読み取れないキャラクターです。ルフィは普段、何を考えているか悟られない、もしくは何も考えていないような印象を与えるように作画されている可能性があります。

 

 

直接的な心理描写がないことや、こういった感情が読み取れない表情をしている理由は、ルフィが他者の視点で見るべき人間だからだと思います。

 

 

 

ルフィの存在

ナミ、チョッパー、ロビンを仲間に引き入れた時や、アラバスタ編でビビ達を救った時を思い出していただきたいんですけど、ナミ、チョッパー、ロビン、ビビそれぞれの過去や感情が描かれて、読者は彼らの立場や感情を理解しました。そしてそれに対してのルフィの言動に彼らの考えや心情が動かされていくのを見て感動させられます。つまり、常に感情移入しているのは「彼ら」側だけで、ルフィ自体は言葉を発するまで何を考えているか理解できないようになっているのです。

 

ONE PIECE』と『NARUTO』編でも解説したように、『ONE PIECE』では常に話の軸はルフィであり、ルフィを中心に周りが変化していきます。つまり、ルフィは常に「最強であり、変化させる側」という絶対的立場という前提で話が進んでいきます。基本的にルフィが負けることはなく、どんなに相手が強くても新技で倒し、人々を変えていきます。

NARUTO』では、ナルトの周りには常にナルトよりも強い人たちがいて、ナルトは何度も負けたり助けてもらいながら成長を繰り返して強くなっていきます。そういう意味では『NARUTO』は『ハリーポッター』と同じ構造を持っています。

 

そのため、『NARUTO』ではナルトが出てこない話は多々あり、「ナルトたち」の成長を描いているのに対し、『ONE PIECE』ではほとんどルフィがいない話はありません。それは、「ルフィと○○」という構造を常に維持しながら話が進んでいくからです。頂上戦争ではついに一味すら出てきませんが、ルフィはまた別のパーティを組んで話を展開させます。

 

つまり、ルフィの存在を、「変化させられる側」に感情移入しながら、ルフィをはたから見てきた訳です。ルフィの存在を大きく見せていたのは、尾田さんが常に「ルフィの仲間」目線でルフィの存在を読者に見せていたからです。もし、『ONE PIECE』がルフィの心情が丸見えで描かれていたら、ルフィの一言や行動にそこまで感動していなかったと思います。あえてルフィに内的な感情描写を作らず、外的な描写からルフィを読み取らせた。そして、「ルフィの仲間」目線でルフィを見てきた僕たちは、普段何も考えてなさそうなヤツからの仲間思いな熱い一言に心を持って行かれていたんだと思います。

 

 

 

 

長々と語ってしまいましたが、『ONE PIECE』は、そういった細かいキャラクター描写に常に共感させられて、自分も旅をしているかのような感覚にさせられるとても巧妙な漫画だと思いました。